はじめに
変動的賃金の計算において、割増賃金のルールは避けて通れない論点です。割増賃金の基本ルールを知らないばかりに計算を誤り、当局から賃金未払いを指摘されて過去に遡及して精算するよう指導・命令されるのみならず、法令違反で厳しく処罰される場合もあります。
割増賃金とはどのようなものか?
割増賃金は労働基準法に規定された義務
労働基準法第37条では、使用者が労働者に対して法定労働時間を超える労働、法定休日における労働、あるいは深夜時間帯の労働を行わせた場合、通常の労働時間の賃金に対して一定の率で割増した賃金を支払うことを義務付けています。この規定は企業規模や業種を問わず、労働者を雇い入れるすべての事業主に適用される法的な義務です。
割増賃金は不健康労働抑制のペナルティ
割増賃金制度の趣旨は、従業員の残業や休日出勤、深夜勤務を奨励するためのインセンティブなどではありません。過重労働や深夜労働は労働者の健康を損なう要因となります。そのため、法の基準を超える労働に対して経済的なペナルティを使用者に課すことにより、不健康な労働を抑制し、労働者の健康と生活の保全を図ることが目的です。
割増賃金を算定する基礎となる額とは
割増賃金を計算する際の基礎となる1時間あたりの賃金単価(以下「算定基礎額」といいます)は、原則として労働者に支給される通常の賃金総額から算出します。ただし、労働者の個人的事情に基づいて支給される手当や臨時的な賃金については、算定基礎額から除外することが法令により認められています。具体的には以下の7種類に限られます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われる賃金(結婚祝金や災害見舞金など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
これらは限定列挙であり、これら以外の名称を持つ諸手当(例:役職手当、資格手当、精皆勤手当、危険手当など)はすべて算定基礎額に算入します。また上記に含まれる手当であっても、一律の額で支給されている場合は算定基礎から除外できません。例えば、個々の労働者の事情に関係なく、全員同額で支給される住宅手当や通勤手当は除外できません。
法令で義務付けられた割増賃金は3つ
時間外割増
時間外割増しとは、労働基準法に定める1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働した時間について、算定基礎額の25%の割増賃金を支払わねばなりません。さらに過重労働による健康障害防止を目的として、月60時間を超える時間外労働に対しては、通常の時間外割増25%に対し、さらに25%を上乗せしなければなりません。
法定休日割増
労働基準法の法定休日に労働させた場合は、算定基礎額の35%以上の割増賃金を支払わねばなりません。法定休日を何曜日とするかは事業主の任意ですが、法定休日以外の公休日に労働させた時間については、法定休日割増しの義務はありません。ただし公休日の勤務によって週の労働時間が法定労働時間(40時間)を超える場合は時間外割増しが必要です。
深夜割増
労働基準法の深夜時間帯(22時~翌日5時)の労働に対しては、算定基礎額の25%以上の深夜割増を行わねばなりません。なお同法にて労働時間管理から除外される管理監督者については時間外割増と法定休日割増は不要ですが、深夜割増は行わねばなりません。これは深夜割増が労働時間の長さではなく、労働する時間帯に着目したペナルティだからです。
割増賃金の計算でよく寄せられる相談
8時間を超える法定休日労働は何割増し?
割増賃金について寄せられる相談で最も多いのが、法定休日の労働時間が8時間を超えた場合、法定休日割増35%+時間外割増25%=60%割増しとなるのか?というご質問です。しかし法定休日にはそもそも最初から所定労働時間も時間外労働もありませんので、法定休日労働は何時間働こうと一律に35%以上の割増賃金の支払いが必要です。
法定休日労働が深夜時間帯に及ぶ場合は?
法定休日労働は何時間働こうが法定休日割増の35%のみです。しかし勤務が深夜時間に及ぶ場合は、25%以上の深夜割増を加算しなければなりません。深夜割増の項目で解説したように、時間外割増と法定休日割増は労働時間の総量を抑制するための制度ですが、深夜割増は労働する時間帯に対する規制ですので、時間外労働や法定休日労働と併用されるのです。
時間外労働を遅刻・早退と相殺できるか?
時間外労働と遅刻早退の欠勤控除は賃金単価が異なるため相殺できません。従って時間外手当と欠勤控除はそれぞれ支給し、控除する必要があります。また時間外労働は必ず日単位、週単位でそれぞれ精算します。まず①日単位で法定労働時間を超える労働時間を認識し、次いで②週の法定労働時間を超える労働時間(①の時間を除く)を加算します。
割増賃金計算に関するその他の注意事項
割増計算時の端数処理の方法について
割増賃金の計算において生じる端数については、事務処理の簡素化を図る目的から、労働基準法の行政解釈(通達)により一定の端数処理方法が例外的に認められています。
- 1時間あたりの割増賃金額および割増賃金総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる。
- 1ヶ月における時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの合計時間に1時間未満の端数が生じた場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間単位に切り上げる。
当月末締め当月25日支給の月給制の場合
労働基準法の「賃金全額払いの原則」によると、当月の賃金は当月の支給日に全額払わなければなりません。しかし月末締め・当月25日払いの月給制では、時間外労働などは月末の勤務を終了しないと勤務実績を確定できません。そこで例外的に変動的賃金については、翌月の給与支給日に精算することが認められています。
固定残業代で割増賃金を削減できるか?
固定残業代とは、予め残業代相当額を見込んだ賃金を支払うもので、割増計算事務の煩雑さを解消することができる制度ですが、固定残業代が何時間の残業に相当するのか、みなし残業時間に相当する算定基礎額部分と割増手当部分を予め明確にしておく必要があります。またみなし残業時間を超える残業については、別途割増した残業手当の支払いを要します。
まとめ
本記事では給与計算における変動的賃金の割増計算のポイントを解説しました。なお変形労働時間制やフレックスタイム制を導入した場合の時間外割増の計算は、本記事(原則的な計算ルール)と異なりますので、別の記事で詳しく解説します。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


