労災保険制度の趣旨
労働基準法と労災保険
労働基準法では、労働者が業務災害によって傷病にかかった場合に、事業主が経済的補償を行う旨を義務付けている。しかし事業主の資力不足によって、補償が履行されない場合に備えて、労災保険が事業主の補償義務を代行する仕組みになっている。
労働安全衛生法と労災保険
労災保険は労働安全衛生法とも密接な関係にある。労災保険の給付要件などは労働者災害補償保険法に規定されているが、労災事故の防止や改善指導などのルール、労災防止措置義務違反に対する罰則などは、労働安全衛生法に定められている。
労災保険制度の概要
労災保険の全体像
労災保険制度を大別すると、労働者への給付を行う保険本体と、被災労働者の社会復帰を目的とした付帯事業(社会復帰促進等事業)で構成されている。また保険本体には、被災労働者に対する各種給付と、労災予防のための二次健康診断給付がある。
労災保険の各種給付
業務災害に対する給付を◯◯補償給付、通勤災害に対する給付を◯◯給付というが、ここではひとまとめにして◯◯(補償)給付と表現する。
■療養(補償)等給付
労災による傷病の療養費用を給付するもので、原則として労災指定病院において、現物給付(医療サービスの提供)によって行われる。
■休業(補償)等給付
労働者が、労災によって就業できず、なおかつ賃金も支給されない場合の生活補償である。休業した日ごとに、被災労働者の平均賃金の6割が給付される。
■傷病(補償)等年金
休業補償給付を受給している労働者が、1年6ヶ月経過しても、職場に復帰できず、なおかつ傷病等級第1〜3級に該当する場合に、年金給付に切り替えるもの。
■障害(補償)等年金・障害(補償)等一時金
労災による傷病が障害(療養を継続しても症状の改善が見込めない)状態になった時に、重度障害は年金で、軽度障害は一時金で、生活補償を行うもの。
■介護(補償)等給付
傷病(補償)年金もしくは障害(補償)年金を受給しており、傷病(障害)等級第1〜2級に該当する労働者が、介護サービスを必要とする場合に、その費用を給付するもの。
■遺族(補償)等年金・遺族(補償)等一時金
労働者が労災事故によって死亡した場合に、一定の要件を満たす遺族に対して、年金方式で生活補償を行うもの。遺族が要件を満たさない場合は一時金を給付する。
■葬祭料(葬祭給付)
労働者が労災事故によって死亡した場合に、葬祭を行う者に対して、葬祭費用を給付するもの。葬祭料は業務災害、葬祭給付は通勤災害の場合に給付する。
■二次健康診断等給付
労働安全衛生法に定める一般健康診断において、脳や心臓に異常の所見があった労働者に対し、健診病院にて、二次健康診断および保健指導を提供するもの。
社会復帰促進等事業
労災保険の付帯事業は、①社会復帰促進事業、②被災労働者等援護事業、③安全衛生確保等事業の3つで、労災保険の実務では、労災保険の本体給付とセットで行われる②の特別支給金を理解しておく必要がある。
労災保険の加入対象者
適用される事業所と労働者
労災保険は、労働基準法の事業主の災害補償義務を代行するものなので、労働者を1人でも使用する事業場は、業種や規模に関係なく、労災保険に強制加入する。また労災保険は、雇用身分や年齢、勤続年数などを問わず、全ての労働者が補償の対象となる。
経営者の特別加入制度
労災保険は労働者の救済を目的とした制度なので、原則として経営者は加入できない。ただし一定の規模以下の中小企業で、なおかつ労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は、経営者も労災保険に特別加入(第1種特別加入)することができる。
特定フリーランス事業者
労災保険には、一人親方の特別加入制度もある。ただし業界団体を通じて加入することが要件であり、業界団体そのものが存在しないフリーランス(特定フリーランス事業者)のために、令和6年11月から労災保険に特別加入できる制度が新設された。
労災保険制度の概要のまとめ
労災保険料は全額事業主負担
社会保険や雇用保険と違い、労災保険料は事業主が全額負担する。保険料はいったん概算額を納付し、労働保険年度更新にて確定額と相殺したり、労災発生率によって保険料率が増減するメリット制など、労災保険料には独特の制度がある。
おすすめの書籍
事業主は1人でも労働者を雇ったら労災保険に強制加入することになり、労災事故が発生したらできるだけ速やかに労災保険給付の手続きを行う義務がある。一方で多くの労災事故は不意に発生するものであり、有事に備え、事業場ごとに実務手続きガイドを常備しておきたい。
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