当サイトはアドセンス広告およびアフィリエイト広告を利用しています。

001_労働契約のFAQ

【即日退職】入社1日で辞めたスタッフ。社会保険の「同月得喪」手続きと保険料徴収のポイント

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院に採用した歯科助手が、初日の勤務を終えた直後、メールで「自分には合わないので本日限りで辞めさせてほしい」と連絡してきました。いわゆる「即日退職」です。

本人からは、「たった1日しか働いていないし、履歴書に傷をつけたくない。1日分の給料もいらないので、入社したこと自体をなかったことにして、社会保険の手続きもしないでほしい」と強く要望されています。

事務長からは「本人がそう言っているなら、手続きをせずに済ませても良いのではないか…」と言われていますが、法的にどのような問題がありますか?

  1. 本人が拒否していても、1日だけの勤務で社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険に加入させる義務がありますか?
  2. 「入社をなかったことにする(手続きをしない)」という処理は認められますか?
  3. 1日分の給与支払いと、社会保険料の徴収・精算はどのように進めるべきでしょうか。

ご相談への回答

できるビジネスパースン

せっかく採用したスタッフが1日で辞めてしまうのは非常に残念なことですが、事務処理については感情や本人の要望を切り離し、法令に基づいた「原則通り」の対応が求められます。

結論から申し上げますと、たとえ1日の就労であっても、雇用関係の実態がある以上、社会保険・労働保険への加入は義務であり、遡って取り消すことはできません。

社会保険・労働保険は「強制加入」が原則

社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険は、一定の要件を満たす場合に事業主や労働者の意思に関わらず法律上当然に加入する「強制保険」です。

  • 「なかったこと」にはできない: 1日でも出勤し、貴院の指揮命令下で労働を提供したのであれば、その時点で被保険者資格を取得しています。本人の要望で手続きを怠ると、後日ハローワークや年金事務所の調査で発覚した際、貴院が「虚偽の届出」や「未加入」を指摘され、罰則や延滞金を科されるリスクがあります。
  • 職歴への影響: 本人が「履歴書に傷をつけたくない」と言っても、行政記録上は資格の取得と喪失が残ります。これは法令遵守の観点から避けることはできません。

同月得喪(入社した月に退職)の事務処理

今回のように入社した月に退職することを「同月得喪」と呼び、以下のように処理します。

  • 健康保険:1ヶ月分の保険料が発生します。 1日でも被保険者であれば、その期間に保険診療を受ける権利(医療給付)が発生するため、後日還付されることもありません。
  • 厚生年金保険:いったん1ヶ月分を納付しますが、後日還付されます。 厚生年金保険料は、月末時点の年金加入状況(別のクリニックへの転職や、国民年金への切り替え)によって、どちらの制度に納付するかが決まるためです。最初に従事した貴院での保険料は「二重徴収防止」のため、後日必ず還付(または次回以降の納付分と相殺)されます。

給与支払いと保険料徴収のフロー

トラブルを未然に防ぐため、以下のステップで清算を行うことを推奨します。

  1. 1日分の給与を支払う: 本人が「いらない」と言っても、労働の実態がある以上、支払わないことは「賃金全額払いの原則」に違反します。振込記録を残すなど、確実に支払ったエビデンスを残してください。
  2. 保険料の本人負担分を精算する: 給与から健康保険料と厚生年金保険料(1ヶ月分)を控除します。給与額よりも保険料が高い場合は、不足分を本人に請求する必要があります。
  3. 厚生年金の返還: 年金機構から還付の通知が届き次第、預かっていた厚生年金保険料(本人負担分)を速やかに本人へ返金してください。

実務的な解決策:本人が納得しない場合

本人には「社会保険は法律で加入が義務付けられており、事業所の判断で加入させないことは法律違反(脱税や不正と同じ)になる」という事実を誠実に説明してください。

もし本人が頑なに拒否して音信不通になった場合でも、貴院としては判明している情報の範囲内で「資格取得届」と「資格喪失届」を速やかにハローワークや年金事務所へ提出してください。これにより、貴院としての法令遵守義務を果たすことができます。


本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 1日だけの勤務であっても、実態として雇用関係があれば「社会保険」も「雇用保険」も加入は義務である。
  • 本人の要望であっても「入社をなかったことにする」ことは、貴院が行政からペナルティを受けるリスクを伴う。
  • 健康保険料は1ヶ月分発生するが、厚生年金保険料は後日還付されるため、還付後に本人へ返金する手続きが必要である。
  • 1日分の給与は、後の賃金トラブル(未払い請求)を防ぐためにも、原則通り支払うべきである。

歯科クリニックは信頼が第一の職場です。事務手続きにおいても、例外を認めずルールを徹底することが、結果としてクリニックのガバナンスと社会的信用を守ることに繋がります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

-001_労働契約のFAQ