はじめに
本記事では、裁量労働制、変形労働時間制、高度プロフェッショナル制度といった特殊な勤務形態について、その特徴と制度の概要を紹介します。医療経営においては馴染みの薄い勤務形態ではありませんが、一般常識程度に軽く読み流していただけると幸いです。
裁量労働制
裁量労働制(みなし労働時間制)の特徴
裁量労働制(みなし労働時間制)とは、実際の労働時間に関わらず、労使協定等で定めた時間(みなし労働時間)を働いたものとみなす制度です。労働時間を算定し難い業務や、業務遂行の手段や時間配分を労働者の裁量に委ねる方が効率的な場合に採用されます。
ただし、この制度はあくまで労働時間の「計算」の特例であり、休憩、休日、深夜労働の規定については通常の勤務制度と同様に適用される点に注意が必要です。なお、歯科診療に携わる医師、歯科衛生士、事務職員などの職種は、後述する対象業務に含まれないため、原則として適用対象外となります。
事業場外のみなし労働時間制
直行直帰の外勤営業など、使用者の指揮命令が及ばず労働時間の算定が困難な場合に適用されます。しかし、昨今は勤怠管理アプリやモバイル端末の進化により、出先で指示を受けたり報告したりすることが容易になったため、外勤職であっても本制度の対象とならないケースが増えています。
専門業務型裁量労働制
研究開発職やシステムエンジニア、デザイナーなど、法律で具体的に定められた20種類の職業に従事する労働者が対象です。業務の性質上、時間配分の決定を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に、労使協定の締結と届出によって導入可能です。
企画業務型裁量労働制
企業の中枢部門において企画、立案、調査、分析を行う労働者が対象です。職種が特定されていないため、導入には労使委員会の設置と委員の5分の4以上の多数による決議、さらに労働基準監督署への届出が必要という非常に厳しい要件が課せられています。
変形労働時間制
変形労働時間制の特徴
時期によって業務の繁閑がはっきりしている場合に、一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が法定労働時間内に収まっていれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
ただし、法定の総枠を超えて働かせる場合には、36協定の締結・届出および割増賃金の支払いが必要であることは、原則的な働き方と変わりません。
一ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月以内の期間を平均して週40時間(常時10人未満の歯科クリニック等の特例対象事業は44時間)以内に収める制度です。月初や月末、あるいは特定の曜日に繁閑の差が生じやすい歯科クリニックにおいて、最も活用の余地が大きい勤務形態です。
あらかじめ各日の勤務時間を特定しておくことで、繁忙日の残業代(割増賃金)を抑制し、柔軟なシフト管理を可能にします。
一年単位の変形労働時間制
1ヶ月を超え1年以内の期間で労働時間を調整する制度です。シーズンによって繁閑の差が激しい観光業などに適していますが、対象期間が長く、労働時間の調整が後手にまわって過重労働を招く恐れがあるため、1日10時間・週52時間の労働時間の制限があります。
また、この制度を採用する場合、特例対象事業であっても週44時間の特例は認められず、週平均40時間を厳守しなければなりません。
非定型一週間単位の変形労働時間制
常時30人未満の小売業、旅館、飲食店等に限り、1週間単位で労働時間を調整できる制度です。日ごとの繁閑差が激しい特定の業種が対象ですが、歯科クリニック(保健衛生業)はこの対象業種に含まれていません。
フレックスタイム制
1ヶ月から3ヶ月以内の清算期間において、週平均の労働時間が法定労働時間内であれば、法定時間を超える就労を認める制度であり、最大の特徴は、始業および終業の時刻を労働者の決定(裁量)に委ねる点にあります。
法令の施設基準にもとづいてスタッフを配置しなければならない医療機関においては、個々のスタッフの裁量で自由に出勤できるフレックス制は馴染まないのが実情です。
高度プロフェッショナル制度
年収1,075万円以上で、高度な専門知識を必要とする業務(金融開発、アナリスト、コンサルタント等)に従事する者を対象とした制度です。本制度が適用されると、労働時間、休憩、休日、さらに深夜の割増賃金に関する規定も適用除外となります。
医師や歯科医師であれば本制度の年収要件を満たすと思われますが、対象となる業務に診療行為は含まれていません。むしろ医師の過重労働が問題となっており、医師や歯科医師については、医師の働き方改革の枠組みにおいて勤務形態を整備する必要があります。
基本的な働き方をおさらいする
法定労働時間と法定休日が労務管理の原点
特殊な勤務形態を活用する場合であっても、労働の基本は「1日8時間、週40時間(特例対象事業は44時間)」の法定労働時間と、「毎週少なくとも1回」の法定休日です。これを超える時間外労働や休日労働をさせるには、必ず36協定の締結と届出が不可欠となります。
36協定を締結しても働かせホーダイではない
36協定を締結しても無制限に残業ができるわけではなく、原則として「月45時間、年360時間」という上限があります。臨時的な特別の事情がある場合(特別条項)でも、単月で「100時間未満」、年間で720時間(医師・歯科医師は960時間)に収めなければなりません。
特に月80時間は「過労死ライン」と呼ばれ、これを超えると医師による面接指導の対象となるなど、健康リスクが極めて高まります。適正な労務コンプライアンスの確立には、これら上限を遵守した厳格な勤怠管理が求められます。
まとめ
特殊な勤務形態をひととおりご紹介してきましたが、いかなる制度であっても最後は法定労働時間と法定休日、36協定に行き着きます。まずは原理原則に従って適正な勤怠管理を実施し、労務コンプライアンスの確立とワークライフバランスの実現を目指しましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
