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001(制度概要)_労働基準

複雑でわかりづらい公的健康診断の全体像を独自の切り口で徹底解説

人事担当者なら労働安全衛生法にもとづく定期健康診断の実施は必須の常識です。しかし二次健康診断などの案内が来信すると「どう対応してよいかわからない…」と慌てる場面は珍しくありません。本記事ではこれら公的健康診断の全体像を独自の切り口で徹底解説します。

一般健康診断(労働安全衛生法)

一般健康診断は、労働者の一般的な健康状態を把握し、健康障害を未然に防止することを目的としています。一般健康診断は、実施すべきタイミングによって呼称が異なりますが、健康診断の項目や健診の取り扱いは基本的に共通です。

一般健康診断

  • 実施時期:常時使用する労働者に対し、雇入れの際および1年以内ごとに1回、定期的に実施しなければなりません。
  • 実施項目:既往歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部エックス線、血圧、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、尿検査、心電図の法定11項目です。
  • 例外:雇入れ時の健康診断において、医師による健康診断を受けてから3ヶ月を経過しない者を雇い入れる際、その結果を証明する書面を提出した場合は、相当する項目を省略できます(健診費用の負担を回避するために、採用選考の書類として健康診断書を提出させることは認められません)。

特定業務従事者の健康診断

  • 特定業務:労働安全衛生法により11種類の業務が列挙されており、医療機関で該当するのは主に深夜(夜勤)業務従事者レントゲン業務従事者です。
  • 実施時期:特定業務従事者に対し、当該業務への配置換えの際および6ヶ月以内ごとに1回、定期的に実施する必要があります。
  • 実施項目:定期健康診断と同じ項目ですが、胸部エックス線検査等については1年ごとに1回実施すれば足ります。つまり定期健康診断の中間に一部の項目を省略した一般健康診断を挟むイメージです。

自発的健康診断

  • 実施時期:直近6ヶ月で月4回以上の深夜業に従事する労働者が、自らの健康に不安を覚えた場合に、自発的に受診します。
  • 実施項目:一般健康診断の法定11項目に相当する内容です。

余談ですが、看護職員は入院基本料の算定において、月平均夜勤時間を72時間以下にしなければならない、いわゆる「72時間ルール」があります。

一般健康診断の注意点

  • 費用負担:一般健康診断にかかる費用は事業者が負担します。なお夜勤業務従事者の自発的健康診断は、労働者が立て替えた費用を事業者が支弁する仕組みです。
  • 賃金支払:一般健康診断の受診時間は賃金の支払い義務はありません。ただし厚生労働省の指針は「有給(勤務扱い)とすることが望ましい」としています。
  • 看護職員:入院基本料にかかる「様式9」においては、一般健康診断の受診時間を勤務扱いにできません。看護配置基準の不正を疑われるリスクがあるのでご注意願います。
  • 報告義務:常時50人以上の労働者(非正規含む)を使用する事業場は、健康診断の実施結果を遅滞なく所轄の労働基準監督署に届け出しなければなりません。

特殊健康診断(労働安全衛生法)

特殊健康診断は、有害な業務に従事することで発生する特定の健康障害を早期発見するための健診です。対象となる有害業務には、特定化学物質や有機溶剤などを取り扱う作業がありますが、歯科診療では電離放射線業務粉じん作業が該当します。

電離放射線業務従事者の特殊健康診断

  • 実施時期:レントゲンや歯科用CTの撮影業務に携わるスタッフ(歯科医師、歯科衛生士等)に対し、雇入れ時配置転換時、および6ヶ月以内ごとに1回実施します。
  • 実施項目:被ばく歴の調査、白血球数・百分率、赤血球数・血色素量等、白内障に関する眼の検査、皮膚の検査です。
  • 法令改正:近年の法改正(電離則改正)により、眼の水晶体の被ばく限度の引き下げや、それに伴う眼の検査の重要性、および放射線業務従事者への特別教育の拡充などが図られています。
  • 特記事項:電離放射線業務従事者の特殊健康診断は「一般健康診断(レントゲン業務従事者の健康診断)に加えて行うこと」とされています。つまり2つの健診をセットで実施するのが定石です。

粉じん作業従事者の特殊健康診断

  • 実施時期:院内の技工室で、切削や研磨などの粉塵作業に常時従事する歯科技工士に対し、雇入れ時配置転換時、および1年以内ごとに1回実施します。
  • 実施項目:じん肺法にもとづき、粉塵への曝露歴の調査や、必要に応じてさらに詳しい肺機能検査(スパイロメトリー)などが実施されます。
  • 補足:研磨機やブラストを使用している場合、6ヶ月ごとの作業環境測定も義務です(ハンドツールによる研磨や切削のみであれば不要)。なお自院に技工室がなく、全ての技工物を歯科技工所に外注している場合はじん肺健診も不要です。

特殊健康診断の注意点

  • 費用負担:特殊健康診断にかかる費用は事業者負担です。
  • 賃金支払:特殊健康診断は業務に従事させるための必須要件ですので、受診時間は労働時間として扱い、賃金を支払わねばなりません(時間外受診は割増賃金も必要)。
  • 報告義務:使用する労働者の人数に関わらず、特殊健康診断を実施した全ての事業場に、実施結果について所轄の労働基準監督署へ報告する義務があります。

その他の公的な健康診断(労働者関係)

生活習慣病予防健診(健康保険法)

健康保険法にもとづき、生活習慣病の予防・早期発見のために35歳以上74歳以下の被保険者を対象に実施される健診です。実施は事業者の任意ですが、協会けんぽが費用の一部を補助してくれるため、人間ドックを実施する余裕のない中小事業者の利用が多いです。

なお自己負担分については福利厚生費として事業者が負担し、一般健康診断と同時に実施することが一般的です。「若い頃はあっという間に健康診断が終わったのに、35歳を過ぎたら時間がかかるようになった…」といわれるのは、生活習慣用予防健診が増えたからです。

二次健康診断(労災保険法)

労災保険法にもとづき、一次健康診断(労働安全衛生法の一般健康診断)の脳・心疾患関連の4項目(血圧、血中脂質、血糖、肥満)の全てにおいて「異常の所見」があると診断された場合に、脳・心臓疾患の予防を目的に実施されます。

労災保険(二次健康診断等給付)から費用が全額支給され、原則として労災指定医療機関で精密検査や保健指導を1年度に1回、無料で受けられます。なお、すでに脳・心臓疾患を発症している場合は、二次健康診断の対象外です。

特定健康診査(高齢者医療確保法)

高齢者医療確保法にもとづき、40歳から74歳の加入者を対象にメタボリックシンドロームの予防・改善を目的に実施されます。いわゆる「メタボ健診」と呼ばれるもので、肥満が多くの成人病の要因となりうることから、保健指導を通じて肥満解消を促進します。

会社員などの被ベネフィット者(本人)は職場の健康診断を受けることで代替されますが、会社の扶養に入っている家族(被扶養者)や国民健康保険の加入者などは、保険者や市町村等から届く受診券を用いて、個人で直接申し込んで受診する形となります。

その他の公的な健康診断(医療従事者関係)

給食業務従事者の健康診断(労働安全衛生法)

接触による食中毒の発生を予防するため、調理に従事する者の食中毒菌の保菌(検便)を確認します。これまで解説してきた労働者を対象とする健康診断とは趣旨が異なり、あくまでも給食サービスの利用者の安全を守るための健診です。

病院では患者給食のほか、院内保育所の給食も同一事業者が担うことが多く、一括した管理が求められます。ちなみに病院の施設基準において、100床以上の病院には栄養士1名、大規模または特定給食施設には管理栄養士の配置が義務付けられています。

歯科医師による健康診断(労働安全衛生法)

化学工場等の事業者は、塩酸、硝酸、硫酸などの歯を腐食させる物質のガス、蒸気、粉じんにさらされる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れ、配置換え、および6ヶ月以内ごとに1回、歯科医師による特殊健康診断を実施しなければなりません。

釈迦に説法かとは存じますが、これらの事業者の近隣で開業されている歯科医師の先生方におかれましては、労働安全衛生法の特殊健康診断の実施義務について、事業者に対する啓発を行うことは、医業収益獲得の有効な機会となると思われます。

健康診断にまつわるその他のトピック

健康診断結果の保存義務

事業者は健康診断を受診した労働者に対し、すみやかに診断結果を交付しなければなりません。事業者控は労働安全衛生法にもとづき、一般健康診断は5年間、電離放射線健診は30年間、じん肺健康診断については、じん肺法により7年間の保存義務が定められています。

診断結果は「要配慮個人情報」であるため、厚生労働省の「健康情報取扱規程の手引」に従って自院の健康情報取扱規程を整備し、利用目的や管理責任者を定めた取扱規程を労使協議の上で策定し、労働者に周知しなければなりません。

有所見者に対する事業者の義務

異常所見者がいる場合、健康診断の実施から3ヶ月以内に医師の意見を聴取し、衛生委員会等において、医師の意見を勘案しつつ、就労上の配慮について審議し、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの適切な措置を講じる義務があります。

健診は自費診療・検診は保険診療

健康診断は「疾病の治療」ではないため、原則として保険外(自費)診療です。ただし、健診結果に基づいて病気が見つかり、その治療を目的とした再検査や精密検査を行う場合(検診)は、保険診療の対象となります。

一口に健康診断といっても、その種類や目的、根拠法令などは多岐にわたり、人事担当者でも正確に把握できている人は多くありません。本記事では複雑な公的健康診断を独自の切り口から整理してみましたが、本記事の内容が少しでもご参考になれば幸いです。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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