人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、院長である私と、歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフ合わせて12名が勤務する歯科クリニックです。先日、スタッフの1名が朝の診療準備後に体調不良を訴え、2時間だけ勤務して早退しました。
当院の就業規則には「半日単位の有休」の規定はありますが、「時間単位の有休」に関する記載はありません。院長である私の許可があれば、残りの6時間分を時間単位有給として処理してあげても問題ないでしょうか? また、それができない場合、このようなケースにはどう対処するのが実務上望ましいのかご教示ください。
ご相談への回答

結論から申し上げますと、院長先生の独断で年次有給休暇(有休)を時間単位で付与することは労働基準法上認められません。たとえスタッフ本人が希望し、また本人にとって有利な扱いとなる場合であっても、法的な要件を満たさない運用は違法となるため注意が必要です。
時間単位有給の導入に必要な2つの厳格な法的手続き
労働基準法に定める年次有給休暇は、本来労働者の疲労回復やリフレッシュを図ることを目的に「1日単位」で取得させる制度です。そのため、1日未満の単位で付与する場合には、制度の趣旨が損なわれないよう厳格なルールが設けられています。
半日単位の有休については、通達等により行政解釈上、就業規則に規定を設けることで運用の拡大が認められています。しかし、時間単位の有休(労基法39条9項)を導入するには、以下の2つの要件を同時に満たすことが絶対条件となります。
- 就業規則(賃金規律・休暇規定)への明記
- 労働者の過半数代表者との「労使協定」の締結
労使協定では、対象労働者の範囲、取得可能日数(年5日以内)、1日分の有休に相当する時間数などを定めなければなりません。これらの法的要件を満たさず、使用者の裁量による時間単位付与は法的効力を持ちません。
規律がないクリニックでの実務的な3つの対処法
今回のように時間単位有給の規定がない状況で早退が発生した場合、実務上は以下のいずれかの方法で対応するのが妥当です。
- 2時間分を勤務扱いとし、半日有給+欠勤(控除)で処理する
診療を行った2時間分は「労働時間」として通常通り賃金を支払います。残りの6時間の不在枠に対しては、「半日有給(4時間分)」を充当し、残り2時間分を「早退(ノーワーク・ノーペイによる欠勤控除)」として処理する方法です。既存の就業規則に沿った最もオーソドックスな対応です。 - 事後的に「1日分の有休」に変更し、勤務した2時間分を清算する
急な体調不良という事情に配慮し、その日全体を「1日単位の年次有給休暇」として扱い、出勤した2時間分は清算(次回以降の出勤日の労働時間に充当、または別途賃金調整)を行う対応です。ただし、有休の事後取得は本来権利として請求できるものではないため、クリニック側の配慮(合意)に基づく例外的な運用とする必要があります。 - 当日の残りの時間をすべて「欠勤」扱いとする
有給休暇を一切充当せず、実労働時間の2時間分のみを支給し、残りの6時間分を欠勤控除とする方法です。法的には最も厳格ですが、体調不良を起こしたスタッフへの配慮や感情面を考慮すると、上記1や2の柔軟な対応を検討する方が職場環境の維持につながります。
本件のポイント

- 時間単位有給は、院長個人の許可だけでは付与できず、就業規則の改定と労働者の過半数代表者との労使協定の締結が必須である。
- 就業規則に規定がない場合は、2時間分の勤務実績を立てた上で「半日有休+2時間欠勤控除」とする処理が基本となる。
- 急病等の事情に配慮する場合、事後的に「1日有休」とし、勤務した2時間分を別途清算する柔軟な対応も検討できる。
- 急な早退や中抜けに対応できるよう、今後の労務管理として就業規則の改定と過半数代表者との労使協定締結による「時間単位有休制度」の導入を整備しておく。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。



