人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院(歯科クリニック)では、この度、歯科技工士の求人票を出すにあたって、給与条件の設定に悩んでいます。具体的には月の支給総額を360,000円とし、その中に毎月20時間分の「固定残業手当」を含めるようにしたいと考えています。年間休日は128日、1日の所定労働時間は7時間45分(休憩除く)です。
このような労働条件の場合、基本給と固定残業代はそれぞれいくらに設定するのが適切でしょうか?また、月20時間分の固定残業時間を超える残業が発生した場合、時間外割増を計算する際の基礎賃金(分母)には「総支給額基本給+固定残業代」と「基本給のみ」のどちらを用いるのが正しいでしょうか?
ご相談への回答

支給総額から基本給と固定残業代を逆算する
月の総支給額360,000円を基本給と固定残業代に分ける場合は、それぞれの労働時間に基づき金額を按分するのが合理的です。ただし本ケースはみなし残業時間の中に法定内残業(割増不要)と、法定外残業(25%以上の割増必要)が混在しており、360,000円を労働時間で按分する際は割増率を考慮しなければならない点に注意が必要です。
- 月の労働時間の計算
- 所定労働時間(基本給部分):(365日-128日)×7時間45分※÷12ヶ月=153.0625時間
※7時間45分=7.75時間 - みなし残業時間(固定残業代部分):20時間
- 所定労働時間(基本給部分):(365日-128日)×7時間45分※÷12ヶ月=153.0625時間
- みなし残業時間の内訳の計算
月の所定労働日数:(365日-128日)÷12ヶ月≒20日
∴1日あたりみなし残業時間=1時間- 法定内残業(割増不要):20時間×15分÷60分=5時間
- 法定外残業(割増必要):20時間×45分÷60分=15時間
- 時給単価の計算
時給単価(X):360,000円=(153.0625時間+5時間+15時間×1.25)×(X)
∴(X)=@2,036.055円 - 給与の内訳
- 基本給:153.0625時間×@2,036.055円=311,643円
- 固定残業代:360,000円-311,643円=48,357円
合計:360,000円
残業代の計算単価に固定残業代は含めない
想定している20時間を超えて残業を行った場合、その超過分に対する25%の時間外割増計算の単価となるのは「基本給のみ」です。支給総額の360,000円ではなく、基本給(311,643円)を月平均所定労働時間(153.0625時間)で除して計算します。
労働基準法において割増賃金の計算単価となるのは「通常の労働時間又は労働日の賃金」です。あらかじめ一定時間分の時間外労働の対価として支払われる固定残業代は「通常の労働時間の対価」ではないため、適正に運用されている限り算定基礎から除外します。
ただし固定残業代を割増賃金の計算単価から除外するためには、貴院の就業規則(賃金規程)や労働契約書が次の3要件を満たしている必要があります。
- 基本給部分と固定残業代部分が明確に区分されて規定されていること
- 固定残業代に対応するみなし残業時間が明記されていること
- 実際の時間外労働が固定残業時間を超過した場合、その差額を別途支払う旨が明記されていること
これらが不明瞭な場合、固定残業代を含む月の総支給額が「基本給」とみなされ、360,000円をもとに時間外割増の計算を行わなければならなくなります。
本件のポイント

- 固定残業代制度を導入する場合は、基本給部分と残業代部分を明確に分け、固定残業代が何時間の残業に相当するのか容易に判別できるようにする。
- 固定残業代のみなし残業時間が法定労働時間(8時間)を超過する場合は、その時間について法定の時間外割増(25%)以上の額を上乗せする必要がある。
- 固定残業代のみなし残業時間を超える残業が発生した場合は、その部分について追加の残業代を支払わねばならない。
- 追加の残業代を計算する際は、計算単価に固定残業代を含める必要はない(通常の賃金に相当する額のみで足りる)。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


