労災保険とは?
労働災害と私傷病
![労災で怪我をした男性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-34-174x210.png)
労働者が負傷したり病気になったりした時に、その原因が業務や通勤によるものであれば労働災害(労災)といい、プライペートな事由によるものであれば私傷病といいます。人事管理においては、労災か私傷病かによって、対応が異なります。
労災による傷病の治療には、労働者災害補償保険法にもとづき労災保険から、私傷病の場合には、健康保険や国民健康保険、後期高齢者医療から、それぞれ療養費が給付されます。
![労災および医療保険の比較表](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-28.png)
たとえば健康保険や国民健康保険の場合、療養費のうち7割が保険給付され、残りの3割は自己負担となります。一方、労災保険では、療養費の全額が保険給付されるため、被災した労働者の自己負担はありません。
保険料については、健康保険が労使で折半して負担(国民健康保険料は全額被保険者負担)するのに対し、労災保険料は事業主が全額を負担します。
業務災害と通勤災害
![通勤中に咳き込む男性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-32-210x191.png)
労災には、業務遂行中に、業務に起因して負傷したり疾病にかかる業務災害と、通勤中に、通勤によって負傷したり疾病にかかる通勤災害があります。労働者災害補償保険法においては、業務災害も通勤災害も、受けられる保険給付の内容は同じです。
なお労働者災害補償保険法では、業務災害に対する保険給付を「◯◯補償給付」といい、通勤災害に対する給付を「◯◯給付」と呼んで区別しています。
労災保険法と労働基準法
![交通事故のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-33-210x153.png)
業務災害については、もともと労働基準法において、労働者に対する災害補償を事業主に義務付けています。しかし事業主の資力不足によって災害補償が履行されないといった事態を防ぐため、労災保険が事業主の災害補償を代行することになっています。
![労働基準法と労災保険法の給付内容の対比表](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-30.png)
なお、モータリゼーションの進展により、通勤中の交通事故などが増加したことから、労働者災害補償保険法にて、通勤災害に対する保険給付も行うようになったという経緯があります。
労災保険制度の概要
労災保険の各種給付
![入院している女性患者と診察する男性医師のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-35-210x184.png)
労災保険の主な保険給付は次のとおりです。前述のとおり業務災害は「◯◯補償給付」、通勤災害は「◯◯給付」といいますが、本記事ではスペースの都合上、「◯◯(補償)給付」というように、ひとくくりにして解説します。
- 療養(補償)給付
労災による病気や負傷の療養費に対する保険給付です。患者の自己負担はありませんが、労災指定病院を受診することが原則です(通常の保険診療病院を受診すると、いったん療養費の全額を立替払いする必要があります)。 - 休業(補償)給付
労災により就労不能となり、なおかつ無給で休業せざるを得なくなった時に、経済的な保障を行います。通常は休業4日目から、休業した日ごとに、被災労働者の平均賃金の6割が、労災保険から給付されます。 - 傷病(補償)年金
休業(補償)給付を受けて1年6ヶ月経過し、傷病等級第1級〜3級に該当した場合に、休業補償給付から傷病補償年金に切り替わります。休業が長期化した重症者に対する保険給付を、日払方式から年金方式に改めるということです。 - 障害(補償)年金・障害(補償)一時金
労災によって障害状態(療養を続けても症状改善が見込めない状態)となった場合に、障害の程度に応じた保険給付が行われます。障害等級第1級〜7級は年金、第8級〜14級は一時金での支給となります。 - 介護(補償)給付
傷病(補償)年金もしくは障害(補償)年金を受給している者のうち、傷病(障害)等級第1級(常時介護)もしくは第2級(随時介護)に該当するため、介護サービスを利用している場合に、その費用を労災保険から給付します。 - 遺族(補償)年金・遺族(補償)一時金
労働者が労災によって死亡した場合に、一定の条件を満たす遺族に対し、労災保険から遺族(補償)年金を支給します。なお遺族が遺族(補償)年金の受給要件を満たしていない場合は、一時金が支給されます。 - 葬祭料(葬祭給付)
労働者が労災によって死亡した場合の葬祭料を労災保険から支給します。なお業務災害による死亡の場合は葬祭料、通勤災害による死亡の場合は葬祭給付といいます。 - 二次健康診断等給付
二次健康診断等給付は、労働安全衛生法(後述)に定める一般健康診断において、脳や心臓に異常の所見があった労働者に対し、健診給付病院において、二次健康診断および保健指導を無料で提供するものです。
ココがポイント
国民年金や厚生年金は、障害判定されなくても、初診日から1年6ヶ月経過すると障害年金が支給されますが、労災保険は障害判定されない限り、障害年金は支給されません。ゆえに傷病年金でグレーゾーンをカバーしています。
社会復帰促進等事業の主な内容
![リハビリを受ける男性利用者と男性理学療法士](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-36-210x196.png)
社会復帰促進等事業とは、労災保険の付帯事業として、労災にあった労働者の社会復帰の促進事業、労災保険の上乗せとしての特別支給金や特別ボーナス支給金の給付事業、業務災害防止活動などを行っています。
ご参考までに、労災保険と特別支給金と特別ボーナス支給金の対応関係は、下表のとおりとなっています。基本的に休業、傷病、障害、遺族といった、経済的保障のための労災保険給付に加算される仕組みです。なおそれぞれの詳細は、個別の記事で詳しく解説します。
![労災保険給付と特別支給金、特別年金の対比表](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-29.png)
労災保険が適用事業所と対象労働者
労災保険の強制適用事業所
![スーパーマーケットのイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-7-210x158.png)
労働者を1人でも使用する事業所は、業種や従業員数に関係なく、労災保険に強制加入します。労災保険料は、54の業種ごとに88/1000〜2.5/1000の範囲で定められた保険料率を、毎年の賃金総額に乗じて得た額となり、毎年7月10日までに納付します。
労働保険料(労災保険料と雇用保険料)の計算や納付の方法は複雑なので、別の記事で詳しく解説しますが、他の社会保険料と異なり、労災保険料については、労働基準法の災害補償責任を労災保険が肩代わりしていることもあり、保険料は事業主が全額負担します。
関連記事労働保険料の計算と納付
労災保険の対象となる労働者
![商品補充を行うスーパーの女性店員](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-1.png)
労災保険は、パートタイマーやアルバイト、派遣社員や契約社員など、勤務時間や雇用身分を問わず、外国人技能実習生を含む全ての労働者が対象となります。例外は国家公務員と地方公務員、従業員5人未満の個人経営の農業や漁業です。
国家公務員と地方公務員は、それぞれ国家公務員共済組合、地方公務員共済組合から労災補償を受けられます。個人経営の農業や漁業は、国民健康保険によって業務災害もカバーされています。
労災保険の特別加入制度
![寿司を握る親方と弟子](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-38-210x210.png)
経営者は労災保険に加入できません。しかし小規模の小売業などの場合、経営者が従業員と一緒に店頭で商品補充を行ったり、生鮮品の商品加工に従事するケースは珍しくなく、経営者であっても労災リスクを抱えています。
そこで労災保険には、一定要件を満たす経営者が特別加入できる制度があります。一定要件とは、①法定の事業規模以下であること(下表)、②労働保険事務組合に労働保険事務を委託していること、③役員および従業員の全員が労災保険に加入すること、です。
![労災保険第一種特別加入の要件](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-31.png)
なお労災保険に特別加入しなくても、5人未満の小規模法人の役員は、労災による負傷に対し、健康保険で医療機関を受診できる場合があります。また個人事業主が加入する国民健康保険は、労災と私傷病の両方に対して保険給付を行うことになっています。
さらに国民年金や厚生年金の障害年金と遺族年金の支給要件は、労災か私傷病かを問いません。ただし労災保険に比べると補償が手厚いとはいえませんし、健康保険と国民健康保険は費用の3割が自己負担ですから、やはり労災保険の特別加入制度を利用した方が良いでしょう。
労災保険と労働安全衛生法
![工事現場の安全第一のフェンスのイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-37-210x173.png)
労働安全衛生法の目的と概要
労働安全衛生法は、労働基準法の安全衛生に関する条項が独立分離した法令です。労働者災害補償保険法が、労災発生後の各種補償を規定しているのに対し、労働安全衛生法は、労災予防のために事業主や使用者が果たすべき義務について定めています。
労働安全衛生法の主な内容は、職場の安全管理体制、危険有害物の取り扱い、建設機械等の取り扱い、従業員に対する健康診断や安全教育の実施要項、事故報告のルールなどで、労災保険制度を有効に活用してゆく上で、労働安全衛生法の基本知識は必須です。
労災防止に対する取り組み
労働災害防止計画とは、労働安全衛生法にもとづき厚生労働大臣が定める労災防止のための5カ年計画です。現在は第14次労働災害防止計画の実施中で、特に年々増加傾向にある高年齢労働者の労災防止対策に重点的に取り組む内容となっています。
![第14次労働災害防止計画の一部](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-39.png)
特筆すべきは、画像の上段「計画の方向性」の一番下にある「誠実に安全衛生に取り組まず、労働災害の発生を繰り返す事業者に対しては厳正に対処する。」という一文です。
事業主は、四半期ごとに労災事故の発生件数を労働基準監督署に報告する義務がありますが、都道府県労働局長が、総合的な労災防止対策が必要であると判断した事業所に対して、安全衛生改善計画の作成を指示することがあります。
さらに労災事故が多発する事業所については、厚生労働大臣が特別安全衛生改善計画の作成および提出を指示します。もし事業主が、計画どおりに労災防止対策を実行しない場合には、事業所名を公表されるなどのペナルティが科されるので注意が必要です。
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