旧)労働安全に関する記事

06 労災保険制度の全体像

2024年3月8日

この記事のポイント

労災には業務遂行中に業務に起因する事由により発生する業務災害と、合理的な通勤ルートにおける通勤途中の事故による通勤災害があり、労働者が労災事故に遭った場合は、健康保険ではなく労災保険から療養や休業に対して各種給付が行われる。

事業主は労働者が労災に遭った場合は、労働基準法にもとづき災害補償を行う義務があるが、労災保険はこれを代行するものであり、ゆえに労働者を1人でも使用する事業主は労災保険に強制加入となり、労災保険料の全額を負担しなければならない。

労災保険により行われる主な給付には、療養補償給付、休業補償給付、傷病補償年金、障害補償給付、介護補償給付、遺族補償給付、葬祭料・葬祭給付、二次健康診断等給付などがあり、付帯事業として社会復帰促進等事業などもある。

労災保険料は、全従業員の一年間の賃金総額の見込み額をもとに計算し、いったん概算額を納付してから、1年後に確定額と相殺する年度更新という方法となっているため、会計仕訳の際は注意が必要である。

業務災害と通勤災害

労災事故とは、労働者が業務中や通勤途中に負傷したり病気になったりすることをいい、前者を業務災害、後者を通勤災害という。労災事故に遭った場合は健康保険ではなく労災保険から療養費や休業補償などの給付が行われる。

業務災害は業務の遂行中に業務に起因して事故に遭った場合をいい、通勤災害は合理的な通勤ルートを通勤している最中に被災した場合に適用される。なお業務災害や通勤災害に該当するかどうかは、会社や被災労働者ではなく所轄の労働基準監督署長が認定する。

山口
独断で労災事故とせずに健康保険証を使って病院を受診した場合は、健康保険は適用されず全額自己負担となります、また労災隠しを疑われて、労働基準監督官の臨検(立入調査)を受けることがあります。

労災保険は事業主の災害補償責任を代行する制度

労働基準法では、労災事故により労働者が負傷したり病気になった時は、事業主が療養費や休業補償などを行う旨を定めているが、事業主の資力不足によって補償が行われないといったことが無いように、事業主に代わって労災保険が補償を代行する仕組みになっている。

そのため、労働者を1人でも使用する事業主は、労災保険に強制加入しなければならず、健康保険や厚生年金、雇用保険などとは異なり、労災保険については保険料の全額を事業主が負担しなければならないことになっている。

なお労働基準法の事業主の災害補償責任と、労働者災害補償保険法の補償給付の対比関係は次表のとおりである。

山口
概ね2つの法律の規定は対応していますが、通勤災害に対する補償は労働者災害補償保険法独自のものです(つまり通勤災害については、事業主は労働基準法上の災害補償義務を負いません)。

労災保険は全ての労働者に適用される

労災保険は正社員のみならずパートタイマーやアルバイトなど、正規雇用か非正規雇用かを問わず、不法就労の外国人労働者を含め、全ての労働者に適用される。また派遣労働者については、派遣先における労災事故であっても、派遣元が労災保険の申請義務を負う。

労災保険すなわち労働者災害補償保険は、あくまでも労働者のための社会保障制度なので、会社の役員などは適用されない。ただし、常時50人以下の労働者を使用する小規模な小売業者であれば、例外的に経営者も労災保険に特別加入することができる。

山口
小規模小売業の経営者が労災保険に特別加入する場合には、労働保険事務組合を通して加入手続きを行う必要があります。

主な労災保険給付の種類

労災保険の各種給付について、どのような場合にどのような給付が行われるのか概要を説明してゆく。なお業務災害は◯◯補償給付、通勤災害は〇〇給付という名称となっているため、ここでは◯◯(補償)給付という表記にて解説してゆく。

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、労働者が業務災害や通勤災害による傷病のため、労災指定病院を受診した時の診察や処置、手術、入院などの費用を労災保険が全額負担してくれるもので、原則として医療サービスの現物給付というかたちで行われる。

山口
労災指定病院以外の医療機関を受診した場合は、被災労働者がいったん医療費の全額(10割)を立替払いした上で、後から労働基準監督署を経由して、労災保険に療養費の請求を行います。

休業(補償)給付

休業(補償)給付は、労働者が業務災害や通勤災害による療養のため休業し、無給となった場合に、休業4日目から平均賃金の6割が支給されるものである。なお業務災害については休業1〜3日までは事業主が労働基準法にもとづき休業補償手当を支払う義務がある。

傷病(補償)年金

傷病(補償)年金は、休業(補償)給付を受給している労働者が、療養を開始して1年6ヶ月を経過しても傷病が回復せず、労働者災害補償保険法に規定する傷病等級第1級~第3級に該当した時に、休業補償給付(1日単位)に代えて、年金として支給されるものである。

障害(補償)給付

障害(補償)給付は、労働者が業務災害や通勤災害によって、労働者災害補償保険法に規定する障害等級第1級~第7級に該当した場合には障害(補償)年金を、また第8級~第14級に該当した場合には障害(補償)一時金を支給するものである。

山口
障害基礎年金(国民年金)や障害厚生年金(厚生年金保険)の障害等級と、労災保険の障害補償給付の障害等級とは全く異なるものです。

介護(補償)給付

傷病(補償)年金もしくは障害(補償)年金を受給している被災労働者のうち、傷病等級第1級~第2級あるいは障害等級第1級~第2級に該当する場合で、常時または随時介護を要する状態にある場合に、介護に要した費用を介護(補償)給付として支給する。

遺族(補償)給付

遺族(補償)給付は、労働者が業務災害もしくは通勤災害によって死亡した場合に、その遺族のうち、一定の条件に該当する者(受給資格者)に対して年金で支給されるが、受給資格に該当する者がいない場合には、遺族に対して一時金が支給される。

葬祭料(葬祭給付)

葬祭料(葬祭給付)は、業務災害もしくは通勤災害によって労働者が死亡した場合に、死亡した労働者の葬祭を行う者に対し、法律で定める額を支給する。

二次健康診断等給付

労働安全衛生法に定める一般健康診断において、脳疾患や心疾患に関する検査に異常所見があった労働者は、労災指定病院で二次健康診断を受診することができる。二次健康診断の費用は労災保険から給付されるが、受診できる回数は年1回までとなっている。

社会復帰促進等事業

社会復帰促進等事業とは、労災保険の付帯事業であり、労災病院の設置・運営等を行う社会復帰促進事業、被災労働者に対して特別支給金や特別ボーナス支給金の給付を行う被災労働者等援護事業、業務災害防止活動に対する援助を行う安全衛生確保等事業の3つをいう。

特別支給金は労災保険の給付額を補うために、また特別ボーナス支給金は労災保険料の賞与分を保険給付に上乗せするものである。それぞれの労災(補償)給付と特別支給金および特別ボーナス支給金との対応関係は次のとおりとなっている。

山口
労災保険料は月々の給与と賞与の合計額により計算されますが、労災(補償)給付は給付基礎日額(賞与を含まない平均賃金)にもとづき支給されますので、特別ボーナス支給金で還元する仕組みです。

労災保険料の計算と納付方法

労災保険料は4月~翌年3月までに全従業員に支払う賃金総額の見込み額をもとに、7月10日までにいったん概算額を納付しておき、翌年に確定額と概算額を相殺するという独特な方法で納付する(労働保険の年度更新)。

山口
会計処理は概算額を月々均等に法定福利費で計上しておき、年度更新の際に還付があれば費用の戻し入れで処理をする方法が一般的です。
  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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