労働安全に関する記事

08 療養(補償)給付

2024年4月9日

労災保険法の療養(補償)給付

労働者が労災によって負傷したり病気になったりした場合に、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)にもとづき労災保険から療養に要した費用が給付される。なお業務災害は療養補償給付、通勤災害は療養給付というが、ここでは療養(補償)給付として解説する。

療養(補償)給付は医療サービスの現物給付として行われる。つまり医療機関で提供された診察、検査、処置、手術、入院、薬剤などの医療費について、病院の窓口で一部負担金を支払う必要が無い。ちなみに健康保険では、原則として7割が保険給付、3割が患者負担となる。

労災保険の療養(補償)給付を受けるためには、労災指定病院を受診しなければならない。労災指定病院を受診できない場合は、いったん医療費を全額(10割)立替払いしたうえで、後日、勤務先を所轄する労働基準監督署を経由して労災保険に還付請求を行うことになる。

山口
経営者は従業員に対し、労災時は①労災指定病院を受診すること、②業務中もしくは通勤時に負傷したことを病院に伝えること、③健康保険証は使えないこと、④直ちに会社に報告すること、の4点を教育しましょう。

労働基準法の災害補償責任との関係

労災保険から給付される療養(補償)給付のうち、業務災害については労働基準法に規定する事業主の災害補償責任を労災保険が代行するものである。これは事業主の資力不足によって被災労働者に対して十分な補償ができないといった事態を避けることを目的としている。

ゆえに労災保険は原則として労働者を1名でも使用する事業者は強制加入となり、労災保険料は全額が事業主負担となっている(健康保険や厚生年金の保険料は労使折半)。そして労災保険から療養補償給付が行われる場合は、事業主は労働基準法の災害補償責任を免責される。

ちなみに労働基準法と労災保険法の対比は以下のとおり。傷病補償給付は休業補償給付を受給してから1年6ヶ月経過し、かつ傷病等級1~3級に該当した時に、日額支給から年金に切り替わるもの。また通勤災害の各種給付と介護(補償)給付は労災保険独自の給付となっている。

(厚生労働省のサイトをもとに弊社にて作成)

労災保険と医療保険の比較

労災に起因する療養は労災保険から、それ以外の私傷病は健康保険からそれぞれ医療サービスが現物給付される。労災でも私傷病でも保険給付は傷病が治癒するまで行われるが、労災保険は医療費の全額が保険給付され、健康保険は原則として7割給付となっている点が異なる。

ここでは小売業をモデルに、小規模法人の経営者が労災保険に特別加入したり、個人商店の事業主が国民健康保険に加入する等のケースを想定して下表に整理してみた。なお労災保険の加入には年齢制限はないが、医療保険の場合は75歳になると後期高齢者医療制度に移行する。

(厚生労働省のサイトをもとに弊社にて作成)
山口
通勤災害による療養給付については初診時に限り一部負担金200円を被災労働者から徴収することになっています。一部負担金は初回の休業給付から控除しますが、被災労働者が休業しない場合には一部負担金は徴収されません。

療養(補償)給付の申請

業務災害によって療養補償給付を申請する場合は「療養補償給付たる療養の給付申請書(第5号)」を、また通勤災害によって療養給付を申請する場合には「療養給付たる療養の給付申請書(16号の3)」を、予め⑳㉑以外の項目を記入して労災指定病院の医事課に提出する。

また受診する労災指定病院を変更したいときは、業務災害の場合は「療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(第⑥号)」を、また通勤災害の場合は「療養給付たる療養の給付をうける指定病院等(変更)届(16号の④)」を、変更後の医療機関に提出する。

なお事情あって労災指定病院を受診できず通常の保険医療機関を受診した場合は、本記事の冒頭で述べたようにいったん労働者が医療費の全額を立替えてから、勤務先を管轄する労働基準監督署に「療養(補償)等給付たる療養の費用請求書」を提出して医療費の還付請求を行う。

山口
被災した労働者に代わって会社が医療費の全額を立替払いしても構いませんが、療養の費用は労働者個人に対して還付されるため、会社が立替えた分を後日返済する旨の覚書を当事者間で交わしておくとよいでしょう。

労働者死傷病報告

事業主は、労災事故にあった労働者の傷病の軽重に関係なく、四半期ごと(1月~12月を4期で区切る)に、所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出する義務がある。なお療養のために4日以上休業した労働者の場合は、遅滞なく労働者死傷病報告を提出しなければならない。

<当サイト利用上の注意>
当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には、事例に応じて所轄の労働基準監督署、公共職業安定所、日本年金事務所等に相談されることをお勧めします。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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