この記事では、事業場の長や人事担当者が押さえておきたい従業員の転勤に伴う手続きについて、公的保険や給与関連の届出を中心に紹介します。
なお、本記事では、転勤前の事業所(支店・支社など)を転勤元、転勤後の事業所(支店・支社など)を転勤先と表記します。
転勤したときの手続き一覧
転勤に伴う主な手続きは、以下の通りです。
①公的保険の手続き
雇用保険被保険者転勤届 | 転勤元と転勤先で雇用保険の事業所が異なる場合 |
健康保険/厚生年金保険 被保険者資格喪失届 | 転勤元と転勤先で社会保険の適用事業所が異なる場合 |
健康保険/厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 同上 |
健康保険/厚生年金保険 被保険者住所変更届 | 転勤に伴い住所が変更になる場合 |
②給与関連の手続き
通勤手当の確認 | |
その他手当・給与控除項目などの確認 | |
住民税の給与所得者異動届出書 | 転勤元と転勤先で特別徴収義務者指定番号が異なる場合 |
③労働基準法に規定の帳簿類の調製
労働者名簿 | |
出勤簿 | |
賃金台帳 | |
年次有給休暇管理簿 |
④その他の手続き
異動辞令の交付 | |
企業年金等の住所変更手続き | 加入制度により、必要に応じて |
社内システムのマスタ変更 | |
貸与品の手配 | 制服や名札など、必要に応じて |
履歴書など人事資料の送付と受領 | 就業場所ごとに管理している書面があれば |
以下、ひとつずつ説明していきます。
転勤に伴う公的保険の手続き
雇用保険被保険者転勤届
雇用保険の被保険者である労働者が転勤した時は、転勤した日の翌日から10日以内に、「雇用保険被保険者転勤届」を、転勤先の事業所を管轄するハローワークへ提出します。
事業所非該当の承認を受け転勤元と転勤先が雇用保険の手続き上1つの事業場とみなされる場合は、提出の必要はありません。
社会保険の被保険者資格喪失届と資格取得届
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者である労働者が転勤した時は、転勤元で被保険者の資格喪失手続きを、転勤先で資格取得手続きを行います。
一括適用の承認を受けて本社や本部等が社会保険の手続きを一括して行っている場合は、被保険者資格の得喪手続きは必要ありません。
転勤元の社会保険の被保険者資格喪失手続き
転勤元の事業所は、転勤した日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」を、管轄の日本年金機構事務センターもしくは年金事務所へ提出します(電子申請も可)。
従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き(日本年金機構)
転勤先の社会保険の被保険者資格喪失手続き
転勤先の事業所は、転勤した日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を、管轄の日本年金機構事務センターもしくは年金事務所へ提出します(電子申請も可)。
就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き(日本年金機構)
社会保険の被保険者住所変更届
転勤に伴い従業員が転居した場合は、速やかに、「健康保険/厚生年金保険被保険者住所変更届」を、管轄の日本年金機構事務センターもしくは年金事務所へ提出します。
転勤した従業員のマイナンバーと基礎年金番号が結びついている場合は、住所変更届の提出は必要ありません。
従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)および被扶養配偶者の住所に変更があったときの手続き(日本年金機構)
転勤に伴う給与の手続き
通勤手当の確認
就業規則や賃金規程などの社内ルールに基づき、転勤後の通勤手当を確認します。
支給額や非課税額が変更になる場合は、給与計算ソフトのマスタ変更を忘れずに行いましょう。
その他の支給・控除項目の確認
通勤手当以外の手当や控除額に変更がないか確認し、必要に応じて給与計算ソフトのマスタ変更を行います。
(例:住宅手当や借上げ社宅の給与課税処理など)
住民税の給与所得者異動届出書の提出
住民税の特別徴収義務者指定番号が転勤元と転勤先で異なる場合は、「給与支払報告/特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の提出が必要となります。
手続きは、転勤元から給与の支払いを受けなくなった月の翌月10日までに行います。
労働基準法の法定帳簿の整備
転勤に伴い、労働基準法に定める帳簿類の整備・保存を行います。
人事給与システムを導入している会社では、改めて作成することは少ないと思いますが、システムに転勤の履歴が残っているか、念のため確認しましょう。
労働基準法の代表的な法定帳簿の例
- 労働者名簿
- 出勤簿
- 賃金台帳
- 年次有給休暇管理簿
年次有給休暇の残日数は、転勤後も引き継がれます。書面で管理している場合は転勤元と転勤先で忘れずに引継ぎを行いましょう。
その他の手続き
上記の他、会社や各支店・支社の状況に応じて、必要な手続きを行います。
転勤に伴うその他の手続きの例
- 異動辞令の交付
- 企業年金等の住所変更(加入制度の決まりに応じて)
- 社内システムのマスタ変更
- 貸与品(制服や名札など)の手配
- 履歴書などの送付と受領(就業場所ごとに管理している場合)
転勤したとき手続きをスムーズに進めるには
転勤に伴う手続きは、公的保険の適用状況、人事・給与システムの導入状況や、人事・労務事務の職務分担など、会社により必要となる手続きが異なります。
上記の一覧表をベースに、自社に合ったチェックリストを作成するなどして、もれなく手続きができるようにしましょう。
おすすめの書籍
様々な届出から保険料の納め方まで、健康保険・厚生年金保険の主な事務手続きを網羅した解説書。
1967年の初版から半世紀以上に渡り発行されている、信頼の一冊。
転勤に伴う社会保険の資格喪失・取得手続きや、通勤手当などの変更で月額変更届の提出が必要になった際に役立つことでしょう。
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