人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院(外来専門歯科クリニック)では、パートタイムで働いているスタッフが年次有給休暇を取得した際に、就業規則に基づき「平均賃金」を用いて有給手当を支給しております。しかし先日、支給額の計算を行ったところ、直近のシフトや勤務日数の影響により、平均賃金で算出した日額が地域の最低賃金を下回ってしまう事態が発生しました。
私どもとしては、労働基準法に則った正確な計算方法(過去3ヶ月の賃金総額÷総日数)を適用しているため法的に問題はないと考えていたのですが、同業の院長仲間から「有給手当が最低賃金を下回るのは法令違反になるのでは?」と指摘されました。当院のこれまでの有給手当の計算方法は間違っていたのでしょうか?
ご相談への回答

結論から申し上げますと、労働基準法の規定通りに算出した平均賃金が最低賃金を下回っていたとしても、それ自体がただちに違法となることはありません。
有給手当と最低賃金法の関係
最低賃金法が適用される対象は、あくまで「現実に労働を行った時間に対して支払われる賃金」です。年次有給休暇を取得した日は労働の義務が免除された日となるため、有給手当の計算においても最低賃金を考慮する必要はありません。
労働基準法第39条第9項に基づき、就業規則に定めた方法(①平均賃金、②通常の労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金、③健康保険の標準報酬日額相当額のいずれか)により適正に計算されている限り、その金額が最低賃金を下回っていても法令違反には当たらないのです。
時給制の平均賃金は最賃を下回りやすい
なお、パートやアルバイトなど時給制で働くスタッフの場合、平均賃金を計算するにあたっては労働基準法第12条第1項・第2項に定める最低保障額(過去3ヶ月間の賃金総額 ÷ その期間の実労働日数 × 60%)と通常の計算方法で算出した平均賃金(過去3ヶ月間の賃金総額 ÷ その期間の暦日数)を比較し、金額の高い方を採用するルールです。
ここで注意が必要なのは、時給自体が最低賃金以上であっても、平均賃金の最低保障額の計算において実労働日数に6割を乗じるために、結果的に最低賃金を下回ってしまうという現象が構造的に発生する点です。しかしこれは計算上のロジックによるものであり、最低賃金法違反等には該当しません。
平均賃金による有給手当のリスクと推奨される対応
このように平均賃金により有給手当を支給する場合は、有給手当の単価が時給を下回ってしまうことが少なくありませんので、時給制スタッフの中には「有給休暇を使うと損をする」「休むと給与が減ってしまう」と考える者が現れる可能性があります。結果として貴院の有給取得率に悪影響を及ぼし、人材の採用や定着が困難になる恐れもあります。
そこでパートタイムのスタッフが安心して年次有給休暇を取得できる環境を整えるためには、就業規則(賃金規程)を改定し、時給制スタッフの有給手当の計算方法を「平均賃金」から「通常の労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金(=時給×所定労働時間)」へ変更することをおすすめします。
本件のポイント

- 平均賃金で算出した有給手当が最低賃金を下回っていても、労働基準法に則り適正に有給手当が計算されている限り違法ではない。
- 最低賃金法が適用されるのは「実際に労働した時間」であり、労働義務が免除されている年次有給休暇取得日には適用されない。
- 時給制スタッフの平均賃金計算では構造的に有給手当が低くなりやすいため、有給手当の計算方法を「通常労働時の賃金」へ変更することを推奨する。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


