療養(補償)給付の概要
労災に対して医療サービスを提供する
療養(補償)給付は労災保険制度の保険給付のひとつで、労働者が労災によって傷病になった時の医療サービスを、労災保険から給付するものである。保険給付は、診察、検査、手術、薬剤、入院、リハビリなどを、医療サービスの提供(現物給付)によって行う。
業務災害に対する保険給付を◯◯補償給付、通勤災害に対する保険給付を◯◯給付というが、本記事では、これらをひとまとめにして、◯◯(補償)給付と表記する。
対象は全ての労働者
労災保険は、原則として労働者を1名でも使用している事業場であれば強制加入となる。その事業場で働いている労働者であれば、雇用身分や勤続年数、年齢、性別、国籍などを問わず、労災保険から必要な保険給付を受けることができる。
退職しても給付される
一般的にあまり知られていないが、療養(補償)給付は、労働者が労災に遭った勤務先を退職した後でも、引き続き労災保険から給付が行われる。療養(補償)給付を受ける権利は、傷病が治癒(障害状態を含む)した時、もしくは労働者が死亡しない限り失権しない。
労働者の費用負担はゼロ
健康保険証を使って医療機関を受診すると、原則として医療費の3割が自己負担となるが、労災保険の場合は、被災した労働者の自己負担はゼロである(つまり医療費の全額が労災保険から支払われる)。また労災保険料は、全額が事業主負担となっている。
知っておきたい予備知識
本来は事業主に補償責任がある
労働基準法では、労働者が業務労災に遭って傷病になった時の療養費用について、事業主が補償する義務を定めている。ただし事業主の資力不足によって、十分な補償が行えなくなる場合に備えて、労災保険が事業主の補償責任を代行する(ゆえに労災保険は強制加入)。
医療サービスは健康保険とほぼ同じ
労災保険の療養(補償)給付によって受けることができる医療サービスは、概ね健康保険の療養の給付と同じ内容となっている。健康保険などの公的医療保険では、療養の給付と付帯サービスを厳格に区別しているが、労災保険では療養(補償)給付で一括りにしている。
最寄りの労災指定病院を確認しよう
療養(補償)給付は労災指定病院でしか受けることができない。もしやむを得ない事情があって、通常の医療機関を受診した場合は、いったん医療費全額を労働者(通常は事業主)が立替払いし、後日に労働基準監督署に還付請求することになる。
特別支給金制度はない
労災保険制度は、被災した労働者の療養、休業、障害、死亡などに対する補償を行うものだが、付帯事業として社会復帰促進等事業というものがあり、労災保険の上乗せ的に特別支給金を給付する制度があるが、療養(補償)給付のような現物給付に対応するものはない。
療養(補償)給付のまとめ
労災かくしは犯罪
労災保険には、労災事故が多発する事業場に対して、保険料率がアップするメリット制がある。それを嫌って労災を隠そうとする愚かな経営者が後を絶たないが、労災かくしが発覚すると処罰される。リスクとコストを考えると、労災削減に注力するのが合理的というもの。
おすすめの書籍
多くの労災事故は不意に発生するものであり、現場に対する指示の遅れにより、労働者が誤って健康保険証で医療機関を受診すると、労災隠しを疑われるリスクがある。賢明な経営者であれば、有事の際に迅速に対応できるよう、実務手続きガイドを常備しておきたい。
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