この記事のポイント
ハラスメントとは?
ハラスメントは相手が不快に感じる言動や行為をいい、英語のHarassment(悩ませる、いじめ抜く、嫌がらせ)が語源である。現在、ハラスメントとして一般に知られている主なものは次のとおりである。
パワーハラスメント
パワハラの定義
厚生労働省では、職場のパワハラを「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させる行為」と定義している。
パワハラの6類型
🚫その1~精神的な攻撃
【例】同僚の目の前で叱責される。他の職員も宛先に含めメールで罵倒される。必要以上に長時間、繰り返し執拗に叱る。
🤔自分がボスだということを職場内に知らしめるための稚拙なパフォーマンスで、体育会系の職場風土を肯定する人達に多いです。
🚫その2~身体的な攻撃
【例】叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。丸めたポスターで頭を叩かれる。
🤔これらは暴行罪や傷害罪などのれっきとした犯罪なので、当事者でなくとも暴力行為を見かけた場合には、警察に通報しましょう。
🚫その3~過大な要求
【例】新人では仕事のやり方もわからないのに他の人の仕事までおしつけられ、同僚は皆先に帰ってしまった。
🤔例えば古参の社員達が、入社したばかりの中途採用者に、担当に関係なく自分達がやりたくない仕事を押し付けるようなケースです。
🚫その4~過小な要求
【例】運転手なのに営業所の草むしりを命じられた。事務職なのに倉庫業務を命じられた。
🤔社内の職務分掌や職務要件定義が曖昧なメンバーシップ型雇用や、適材適所人事といった属人的な人事慣行のある企業でよく見られます。
🚫その5~人間関係からの切り離し
【例】1人だけ別室に移される。性的指向、性自認などを理由に、職場で無視するなどコミュニケーションをとらない。送別会に出席させない。
🤔田舎のオーナー企業など閉鎖的な風土の職場に多く、所属長に統率力や管理能力が乏しい場合には、こういったパワハラが放置されやすいです。
🚫その6~個の侵害
【例】交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。
🤔仕事に必要な範疇を超えて、同僚や部下のプライベートに介入する行為です。体育会系の職場においてよく見られるパワハラです。©
セクシャルハラスメント
セクハラの定義
厚生労働省では、セクハラを「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の反応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により職場環境が害されること」と定義している。
セクハラの2類型
🚫その1~対価型セクハラ
厚生労働省の定義では、対価型セクハラを、労働者の意に反する性的な言動に対して、労働者が拒否したり、抵抗したことを理由に、その労働者を解雇、降格、減給、雇い止めするなど、不利益な処遇を行うこととしている。
🚫その2~環境型セクハラ
環境型セクハラとは、労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響を及ぼすなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいう。
ハラスメントによる経営上のデメリット
ハラスメントがまん延している職場には様々な経営上のデメリットが生じるが、その主なものを次のとおり列挙したみた。
💀従業員の離職
ハラスメントを受けた従業員は、ストレスや不安を感じ、離職してしまう可能性が高い。離職率の増加は、企業にとって大きな損失となる。
💀生産性の低下
ハラスメントを受けた従業員は、仕事に集中できなくなり、生産性が低下する。結果的に企業の業績にも悪影響を及ぼす。
💀企業イメージの低下
ハラスメントが世間に公になった場合、企業のイメージが低下し、顧客や取引先からの信頼を失ってしまう可能性がある。
💀法的なリスク
ハラスメントを受けた従業員から、企業に対して民事訴訟を起こされる可能性がある。不法行為が認定されると、企業は損害賠償責任を負うことになる。
💀経営コストの増加
ハラスメントによる従業員の離職やモチベーションの低下により、採用コストやハラスメント研修のためのコスト、処遇改善コストなどの人件費が増える。
💀企業の競争力低下
労働力人口減少の社会経済情勢において、上記のようなデメリットは、企業の競争力を低下させ、最悪の場合は市場から淘汰される。
ハラスメントの多い組織の特徴
ハラスメントがまん延している職場には共通の特徴がある。それらの主なものは次のとおりだが、総じてメンバーシップ型雇用の閉鎖的な職場風土と、適材適所人事による属人的な人事慣行が残っている企業に、このような傾向が多く見られる。
😢コミュニケーション不足
☑上司と部下のコミュニケーションが少ない
☑同僚間のコミュニケーションが少ない
☑意見や要望を言いづらい雰囲気
☑相談しやすい雰囲気ではない
😢体育会系の企業体質
☑上司が部下に対して威圧的な態度を取る
☑精神論的な厳しい指導が横行している
☑ミスを許さない非寛容な雰囲気
☑長時間労働が常態化
😢男尊女卑の企業体質
☑性的な冗談やからかいが許容される
☑女性に対する偏見がある
☑性的な言動が横行している
☑社内行事では男女を交互に座らせる
😢閉鎖的な雰囲気
☑新しい考えや意見を受け入れない
☑外部との交流が少ない
☑問題が隠蔽されやすい
☑インフォーマルな序列がある
😢ストレスが多い
☑仕事量が多い
☑人間関係が悪い
☑休暇を取りづらい
☑子供っぽい従業員が多い
ハラスメントに関する法令
いくつかの労働関係法令では、企業や使用者に対し、職場のハラスメント防止措置を講ずる法的義務を課している。また労働安全衛生法や雇用保険法では、ハラスメントの被害にあった労働者の救済措置なども規定している。
📖労働施策総合推進法
・パワハラに関する措置
使用者はパワハラにより労働者の就業環境が害されることのないよう、パワハラ防止のための周知、啓発、相談、これらの社内体制の整備等、雇用管理上必要な措置を講じなければならないことを規定している。
📖男女雇用機会均等法
・セクハラに関する措置
使用者は職場におけるセクハラ問題に関して、セクハラ防止のための周知、啓発、相談、これらの社内体制の整備等、雇用管理上必要な措置を講じる義務があることを規定している(非正規雇用や男性に対するセクハラも含む)。
・マタハラに関する措置
使用者は、職場におけるマタハラにより、雇用する女性労働者の就業環境が害されることのないように、マタハラ防止のための周知、啓発、相談、これらの社内体制の整備等、雇用管理上必要な措置を講じる義務があることを規定している。
📖育児・介護休業法
使用者は、職場における育児休業もしくは介護休業を取得した労働者に対するハラスメントによって、職場環境が害されることの無いように、育児・介護休業の周知、啓発、相談、またこれらの社内体制の整備等、雇用管理上必要な措置を講じる義務があることを規定している。
📖労働契約法
労働契約法では、使用者は、従業員と労働契約を締結するにあたり、労働契約書に明記されているかどうかを問わず、労働者が安全かつ衛生的な環境で就労できるように必要な配慮を行う義務(安全配慮義務)を負うことを規定している。
📖民法
使用者が職場のハラスメント防止措置を怠ったために、ハラスメント被害にあった労働者が経済的な損失等を被った場合、使用者は労働契約法の安全配慮義務違反があったものとして、不法行為責任に基づく損害賠償義務を負うことがある。
さらにハラスメントの被害者が派遣労働者であった場合は、派遣先の使用者は、自社の従業員が派遣労働者に対して行ったハラスメント行為について、派遣元の企業に対して使用者責任を負うものとされ、派遣元の企業から民事上の損害賠償を請求されることがある。
📖労働安全衛生法
労働安全衛生法では、常時50人以上の従業員を使用する事業主に対して、ストレスチェックテストの実施を義務付けており、高ストレス者に判定された従業員から請求があった場合には、使用者は当該従業員に対して医師による面接指導を受けさせ、配置転換などの措置を講じる義務が生じる。
📖雇用保険法
労働者が、事業主または当該事業主に雇用される労働者(上司や同僚等)からハラスメントを受けたために離職した場合は、失業保険(基本手当)の特定受給資格者に認定され、2~3ヶ月間の受給制限期間を免除されるほか、支給日数が延長されるなどの救済措置がある。
企業において実施すべきハラスメント対策
これまでハラスメントの種類やハラスメントの発生しやすい職場の特徴、ハラスメント防止のために使用者が講じなければならない法的義務などを解説してきたが、最後にハラスメント防止のための対策について紹介したい。
1.経営者がハラスメントに厳格になる
ハラスメントを容認しない姿勢を社内に伝える、”さんづけ”呼称の励行、経営管理上、必要最低限の範疇を超える頻度の社内行事は差し控える。
2,人事制度を整備する
ハラスメント防止規定およびハラスメント行為に対する懲戒規定、人事評価および昇進昇格審査におけるハラスメント対策への評価項目を設定する。
3,社内アンケートで実態を把握する
より正確な実態把握や回収率向上のために匿名で実施する。Google Form等を使う場合には、外部のコンサルタントを利用するなど、匿名性を担保できるようにする。
4,社員研修を実施する
ハラスメントの定義、実例、デメリット、社内ルール、対人コミュニケーションスキルなどの項目について、部署単位もしくは階層単位で定期的な研修を実施する。
5,社内への周知を行う
自社の行動規範や就業規則のハラスメント防止に関するルール、ハラスメント研修の目的や実施計画、ハラスメント相談窓口などを社内ポータルサイト等で周知する。
6,相談窓口の設置
相談(通報)窓口は人事部長や総務部長が望ましいが、充分な法的知識を有し、職責に忠実な者を選任するなど、人選には最新の注意を払う必要がある。
7,ハラスメント被害者の救済
加害者もしくは被害者の部署異動や職務替えなど、ハラスメントが行われている状態の早期解消および再発防止のための雇用管理上の措置をすみやかに講じる。
8,ハラスメント行為者に対する再教育
コーチングなどの手法により、ハラスメント行為の原因を追求し、スキル面もしくはマインド面から、行為者の特性や課題に応じた再教育を実施する。