労働安全に関する記事

09 休業(補償)給付

労災保険の休業(補償)給付

休業(補償)給付の概要

労働者が労災により負傷もしくは病気にかかって、その療養のために休業せざるを得なくなり、なおかつ休業中の賃金が支払われなかったり、労働基準法に定める平均賃金の6割未満に低下したりした時は、労災保険から被災労働者に対して休業(補償)給付が行われる。

ちなみに業務災害については労働基準法の災害補償責任にもとづき、本来は事業主が被災労働者に対して平均賃金の6割以上の休業補償を支払う義務がある。しかし事業主の資力不足によって補償ができないといった事態を避けるために、労災保険が代行する仕組みとなっている。

なお正式には、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)において、業務災害の場合は休業補償給付、通勤災害の場合は休業給付というが、本記事では両者の区別を必要とする場合を除き、休業(補償)給付として、ひとまとめにして解説させていただく。

労働基準法と労災保険の災害補償対比(弊社作成)

山口
1人でも労働者を使用する事業主は労災保険に強制加入し、保険料は全額会社負担となります。また労災保険から被災労働者に対して休業(補償)給付が行われた場合は、事業主は労働基準法に規定する休業補償義務を免責されます。

休業(補償)給付の支給要件

被災労働者が労災保険の休業(補償)給付を受けるための要件は次の3つである。

  1. 労災に起因する傷病の療養のために労働できないこと
  2. 労働できないため賃金が支給されないか、平均賃金の6割未満に減額してしまったこと
  3. 上記2つの状態が通算して3日間以上になったこと(公休日含む、就労日を挟んでも可)
山口
この3日間を待機期間といい、翌4日目から休業(補償)給付が支給されます。なお業務災害の場合、事業主は労働基準法の災害補償義務により、被災労働者に対して待機期間中の休業補償(平均賃金の6割)を支払わねばなりません。

休業(補償)給付の支給額

休業(補償)給付の1日あたり支給額は休業給付基礎日額の6割とされている。休業給付基礎日額とは、大雑把にいうと労働基準法の平均賃金に準じて計算した原則的な給付基礎日額に、四半期ごとの毎月勤労統計の平均給与の変動率を乗じて得た額のことである。

この四半期ごとの統計データにもとづいた給付基礎日額の改定をスライド改定というが、休業(補償)給付の場合は変動率が前四半期の±10%以上にならないとスライド改定は行われない。

また休業(補償)給付の支給が長期化した場合、支給開始から1年6ヶ月経過した後の休業(補償)給付の額は、その年の8月1日時点の被災労働者の年齢に応じ、厚生労働省が定める年齢階層別の最低限度額もしくは最高限度額に応じた最終的な調整が行われる。

(厚生労働省サイトをもとに弊社作成)
山口
例えば支給開始から1年6ヶ月経過した後に支給される休業(補償)給付は、①休業前3ヶ月間の平均賃金→②スライド改定→③年齢階層別の最低限度額・最高限度額の調整を経て確定した給付基礎日額の6割となります。

部分算定日の支給額

所定労働時間の全部が労働不能であるために休業中の賃金が一切支払われない場合は、給付基礎日額の6割が休業(補償)給付として支給される。一方で通院のために一部労働不能となる場合には、未就労により支給されなかった賃金の6割について休業(補償)給付が行われる。

(弊社作成)

なお、有給休暇を全日分取得した場合は「平均賃金の6割未満に賃金が減額した」とはいえないため、休業(補償)給付は支給されない。

休業特別支給金

労災保険には、休業(補償)給付などの本来の保険給付のほかに、被災した労働者やその遺族を援護する被災労働者等援護事業というものがあり、休業(補償)給付を受給している被災労働者に対して休業特別支給金を支給している。

休業特別支給金の支給額は休業給付基礎日額の2割である。つまり労災による傷病の療養のために4日以上休業した被災労働者には、休業(補償)給付と休業特別支給金を合わせて休業給付基礎日額(≒平均賃金)の8割が支給されるということになる。

休業(補償)給付の申請

休業(補償)給付も休業特別支給金も、職場の所轄労働基準監督署に対して所定の様式を提出することで支給申請を行う。所定の様式は業務災害の場合は様式第8号、通勤災害の場合は様式第16号の6であり、それぞれ休業(補償)給付と休業特別支給金の申請がセットとなる。

申請期限は休業(補償)給付も休業特別支給金も支給要件を満たした日ごとに、その翌日から2年以内となっている。つまり請求権の時効は休業した日ごとにそれぞれ進行する。

類似した制度との違い

傷病(補償)年金

傷病補償年金とは、休業(補償)給付の受給が1年6ヶ月を経過し、被災労働者が労災保険法施行規則に定める傷病等級第1~3級に該当した場合に、所轄の労働基準監督署長の職権でもって休業(補償)給付(日払い)から傷病(補償)年金(年金払い)に切り替えるものである。

両制度の対比表(弊社作成)

傷病手当金(健康保険)

労災保険の休業(補償)給付とよく似た制度が健康保険の傷病手当金である。傷病手当金は労災以外の私傷病により休業した労働者に対して、標準報酬月額を日額換算した額の2/3に相当する額を協会けんぽもしくは健康保険組合から支給するものである。

労災保険の休業(補償)給付との大きな違いは、傷病の原因が労災か私傷病か、待機期間が通算3日か連続3日かである。また労災保険の休業(補償)給付は支給期限がない一方で、健康保険の傷病手当金は支給開始から通算して1年6ヶ月で支給が打ち切られる。

両制度の対比表(弊社作成)

民法536条2項

民法536条2項には「事業主の責に帰すべき事由により従業員が休業せざるを得なくなった場合は、労働者は事業主に対して、本来支給されるはずだった給与の全額を請求できる。」という条文があるが、これは経営不振による工場の操業を停止したケース等を想定している。

一方でこれを拡大解釈し「事業主の安全配慮義務違反によって従業員が就労不能となり休業を余儀なくされた。ゆえに事業主は被災労働者に対して休業中の賃金の全額を支払う義務を負っている。」と主張する人もいるが、そもそも労災の認定に事業主の過失は関係ない。

民法536条2項は、労災発生について事業主に故意または重過失があった場合に、労災保険の休業(補償)給付だけでは納得ゆかない被災労働者が、労働基準法や労災保険法の休業補償責任とは別に、使用者に対して損害賠償を請求する際の根拠とされる法令である。

ただし使用者の過失責任を立証しなければならないのは従業員側であり、もし使用者が賠償金や慰謝料の支払に応じない場合は、従業員が民事の損害賠償請求訴訟を提起しなければならない点に注意が必要である。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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